今回のテーマは、早期離職を防ぐための「最強のオンボーディング」です。
最強のオンボーディング実現に向けて、まず初めにオンボーディングの基本的な考え方についてお伝えしていきます。新しい従業員がどのようにして組織に適応し、成長意欲高くキャリアアップしていくことができるのか、その重要なポイントを共有していきますので、どうぞ最後までお付き合いください。
自己紹介
本題に入る前に、スキルティの代表取締役 中塚敏明の自己紹介をいたします。
私はITの黎明期(れいめいき)に生まれました。NTT東日本での経験を経て、2011年にITの派遣会社を設立。しかし、社員の離職問題に直面し、成長環境作りに集中するようになりました。この経験からオンボーディングの重要性を深く理解し、そのノウハウを提供する「スキルティ株式会社」を設立しました。
最近では、このテーマに関連した書籍も刊行し、多くのメディアや企業からの注目を受けています。今日、私が皆さんに伝えたいのは、オンボーディングの構築方法だけではなく、その過程でのエンゲージメントを最大化する方法と、その背後にある考え方です。
本記事が皆さんの組織でのオンボーディングプロセス改善に新たな視点を提供できれば幸いです。
オンボーディングとは
最初に、オンボーディングについて詳しく見ていきたいと思います。
「オンボーディング」の言葉の起源は、船や飛行機に乗り込む行為を指します。しかし、ビジネスの世界では、これに加えて他の重要な意味も含まれます。現代のビジネスでの文脈においてオンボーディングとは、新入社員や中途採用者を組織の文化や方針に適応させることを目的とします。そして、その人の能力や特性を最大限に発揮させるサポートも行います。
これは、単なる業務の教育ではありません。このオンボーディング期間の経験は、新人が組織に長く留まるか、早く退職するかを決める大きな要因となります。その理由は、この期間に新人は組織の文化や価値、そしてチームとの関係性を形成するからです。
このようにオンボーディングは非常に重要なプロセスであるため、新入社員が組織とその文化にスムーズに適応できるよう、計画的に進めていく必要性があります。これにより、新入社員は早くから組織に貢献できるようになります。そして、この経験を経た新人は組織の長期的な成功の礎を築く大きな存在となり得るのです。
最強オンボーディング誕生の背景
ところが、理想的なオンボーディングを実現するのは容易ではありません。私自身、数々の試行錯誤を経て、ようやく理想の状態を築くことができました。その背景を簡潔に共有いたします。
私が設立したIT派遣会社は、初期に離職率が40%という深刻な課題に直面しました。未経験者が多い中、オンボーディングの要素をまとめ、上図②のように研修を増やすことで一時的には改善の兆しを見せましたが、コストだけがふくらみ根本的な解決には至りませんでした。
次に、上図③のようにマネージャー陣による手厚いサポートを試みましたが、結果的に彼らの負担が増大してしまいました。一般職のエンゲージメントは向上したものの、マネージャー陣のエンゲージメントは低下し、中核となる層の離職が増えるという逆効果に。
そこで、私たちは一つの大きな気づきを得ました。それは、人の力だけに頼るのではなく、オンボーディングを仕組み化し、システムとして構築する必要があるということです。この方針転換により、マネージャー陣のエンゲージメントは回復し、全体のエンゲージメントも大幅に向上。結果として、離職率の低下と生産性の向上を実現しました。
この経験から得た教訓は、オンボーディングの要素を整理し、それを効果的に運用するための仕組み化が不可欠であるということです。まず、私たちが実践してきたオンボーディングの要素と、その実現のための考え方についてお伝えいたします。
オンボーディングに大切な考え方
インテル株式会社の創業者 アンディーグローブ氏の言葉によると、「人が仕事をしていないとき、その理由は2つしかない」と言っています。それは、単に「やろうとしない」か、あるいは「それができない」かのいずれかです。この2つの要素は、"will"(意思)と"skill"(技能)として表現できると思います。
まず"will"(意思)は、新入社員が仕事を遂行するための動機や意欲、モチベーションを指します。具体的には、仕事への情熱や組織のミッション、ビジョンに対するコミットメント、自らの役割や責任を理解し受け入れる姿勢などが含まれます。
次に"skill"(技能)は、職務遂行に必要な能力や知識を指します。具体的な技術やツールの使用方法、それを利用するための各種スキル、または特定の職務に関連する知識などが含まれます。このwillとskill、意思と技能のバランスがオンボーディングの成功には不可欠です。
オンボーディングの効果を高めるためには
ここまでの話を踏まえて、オンボーディングの効果を高めるための重要なポイントについてお話しします。
オンボーディングの際に大切なことは"will"(意思)と"skill"(技能)の要素ですが、入社時のほとんどの社員は上図の黄色枠のように「willの意志は高いものの、skillの技能が追いついていない状況」だと思います。熱意や意欲はあるが、具体的なスキルや知識が不足しているため適切なトレーニングや指導が必要で、もしも長期間スキルが向上しないと、その高いモチベーションが失われる恐れもあります。
では、この状況でオンボーディングが確立されていない場合はどうでしょう。技能は向上せず、実際に仕事をしていくなかで意志が失われていき上図の灰色枠の状況になるかと思います。
センスの良い社員であれば右下の水色枠のように技能は向上しますが、意志は失われ、会社の文化を壊しかねない悪い模範になるかもしれません。ですから、オンボーディング期間で意志をさらに確実なものとして、加えて技能を高める環境の構築が重要になります。これにより、組織内での高いモチベーションを保つことができるようになるため、リーダー候補やキーパーソンとしてのポテンシャルを高めることができます。彼らの成長とキャリアの展開をサポートすることで、組織の将来を担保することができるのです。
従業員が最も不満を招く要因とは
ここで、レデリック・ハーツバーグの二要因理論をご紹介します。
この理論によると、「会社の方針の不明確さ」が最も大きな不満の要因とされています。私の実体験でも、離職率が40%以上に達した際にエンゲージメント調査を行ったところ、多くの意見が「方針の不明確さ」に集まりました。この事実からも、方向性をしっかりと明確にする必要性があることが分かります。
オンボーディングの段階で新入社員に対して会社のMVVを明確に伝え、理解させることは、新人のエンゲージメントを高め、組織へのコミットメントを強化する重要なステップです。
まとめ
本記事では、最強のオンボーディング実現に向けて、オンボーディングの基本的な考え方についてお伝えしました。
オンボーディング期間の経験は、新人が組織に長く留まるか、早く退職するかを決める大きな要因となります。その理由は、この期間に新人は組織の文化や価値、そしてチームとの関係性を形成するからです。とはいえ、理想的なオンボーディングを実現するのは容易ではありません。オンボーディングの要素を整理し、それを効果的に運用するための仕組み化が不可欠です。
そして、オンボーディング期間で意志をさらに確実なものとし、技能を高めることができれば、組織内での高いモチベーションを保つことができるようになるため、リーダー候補やキーパーソンとしてのポテンシャルを高めることが可能です。彼らの成長とキャリアの展開をサポートすることで、組織の将来を担保することができるのです。
スキルティ株式会社は、オンボーディングを含む人材育成を仕組み化することによって従業員の成長を促進し、組織の生産性向上に寄与することをミッションとしています。本記事の内容をご参考いただき、自社に合う方法でよりよい組織作りを実現していただけたら幸いです。