人材マネジメント
社会人基礎力と基礎学力の違い
あなたは、とある会社の人事部門の新人社員への教育を担当するチームの1メンバーです。
ある日、あなたは仕事でミスをした新人社員を諭すことになりました。
話の流れであなたは「社会人基礎力が身に付いていないという自覚はある?」と尋ねました。
すると新人社員はこう返してきました。
「基礎力くらいありますよ、自分〇〇大学出身なので」
ちなみに、新人社員は「赤っ恥をかいた」と言えます。
なぜなら、「【基礎学力】と勘違いしている」からです。
社会人基礎力は基礎学力ではありません。
しかし、「基礎学力なくして社会人基礎力は成り立たない」んですよ。
この記事を通して「社会人基礎力と基礎学力の違い」を学んでいらぬ赤っ恥をかかなくて済むようになりましょう!
「社会人基礎力」とは?
「社会人基礎力」とは、2006年に経済産業省が定義した「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要で基礎的な力」のことを言います。
この社会人基礎力は、「前に踏み出す力(アクション)」・「考え抜く力(シンキング)」・「チームで働く力(チームワーク)」の3能力12要素から構成されています。
また、定義から12年経た2018年には再定義がされ、新たに「学ぶ視点(何を学ぶか)」・「統合する視点(どのように学ぶか)」・「目的視点(どう活躍するか)」という「3つの視点」と呼ばれる要素が追加されました。
これらの構成要素に付いては追ってご説明していきますね。
なお、社会人基礎力はしばしば「パソコンやスマホで言うところのOS(Operation Softwear:パソコンやスマホそのものを動かすために必要となるプログラム)」に例えられます。
なぜなら、社会人基礎力は「社会人として最も基本な能力」だからです。
そうは言っても、「OSっていくつも種類があるよね?」と思った人もいますよね。
確かにパソコン用OSには、日本で最も普及している『Windows』シリーズや『MacOS』シリーズがあり、スマホは『Android OS』と『iOS』の2大勢力に分かれます。
しかも、それぞれのOSごとに独自色があるので、「知らなければ触れない」なんてこともよくある話です。
しかし、社会人基礎力は「一度身に付けてしまえばそれだけで通用する」んです!
そのため別名をポータブルスキルとも言います。
つまり、社会人基礎力は「それさえあれば怖くない力」と言えるでしょう。
社会人基礎力の構成要素を解説!
先ほど、「3能力12要素3つの視点」という話をしたので、そちらを解説していきますね。
まずは、「3能力12要素」から見ていきましょう。
前に踏み出す力
「前に踏み出す力(アクション)」は、失敗しても粘り強く取り組む力を言います。
この力は以下の3要素から構成されています。
・主体性: 物事に進んで取り組む力
・働きかけ力: 他人に働きかけ巻き込む力。周囲に呼びかけ、目的に向かって周りにいる人たちを動かしていく能力を言う
・実行力: 自分で目標を設定し、失敗を恐れずに行動し、粘り強く取り組む姿勢を指す
要するに求められているのは、指示待ちではなく、物事を能動的に捉えて自ら行動できるようになる能力になります。
考え抜く力
「考え抜く力(シンキング)」は、何事にも疑問を持って考え抜く力を指しています。
なお、この「考え抜く力」は、改善可能な課題を見つけ、そのためのプロセスを考えることを言います。
ちなみに、この能力の構成要素も3つです。
・課題発見力:現状を分析し、目的や課題を明らかにする力。目標に向かって、自発的に問題を解明し、提案していく力を言う
・創造力: 新しい価値を生み出す力。既成概念に捕らわれず、課題に対する適切な解決方法を考えられるようになること
・計画力: 課題解決に向けたプロセスを明らかにして準備する力。解決に向けた複数のプロセスを明確にし、その中から最善のものを見つけ、それに向けた準備をすること
つまり、求められているのは、単に「考える」だけでなく、納得できるまで考え抜ける自律的な考え方というわけです。
チームで働く力
「チームで働く力(チームワーク)」は、多様な人々とのつながりや協働力を生み出す力を言います。
仕事をする上で最も小さな単位は「少人数のグループ」ですが、そうした最小単位の話だけでなく、全社規模まで踏まえた「多様な人々とのつながりや協働力を生み出す力」を指しています。
この能力の構成要素は6つです。
・発信力: 自分の意見を分かりやすく伝える力。自分の意見を分かりやすく整理した上で、相手に理解してもらえるように伝える力のこと。
・傾聴力: 相手の意見や話を丁寧に聴く力。単に「聞く」だけでなく、相手が話しやすい環境を作り、適切なタイミングで質問するなど相手の意見を引き出せるように心がけることなども含まれる
・柔軟性: 意見や立場などの違いを理解する力。自分のやり方や考えに固執するのではなく、相手の意見などを尊重し、柔軟な理解を示す姿勢を言う
・情況把握力: 自分と周囲の人々や物事との関係性を理解し把握する力。チームで仕事をする際に、自分がどのような役割を果たせるかを把握する力を指す
・規律性: 社会のルールや人との約束を守る力。社会のルールやマナーに基づき、自らの発言や行動を適切に律すること
・ストレスコントロール力: ストレスの発生源に対応する力
この能力は、社会人として最も基礎的な力と言えそうですね。
3つの視点
では、2018年の再定義で新たに追加された「3つの視点」とはどのようなものなのでしょう?
3つの視点は、「個人の企業・組織・社会との関わりのなかで、ライフステージの各段階で活躍し続けるために求められる力」と説明されます。
社会人基礎力の定義は「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要で基礎的な力」でしたから、3つの視点は社会人基礎力の上位概念に当たりそうですね。
なお、3つの視点の構成要素は下記の通りです。
・学ぶ視点(何を学ぶか): 「学び続ける力」を学ぶこと。「何を学んでいくのかを考えることが学びの出発点である」ことを意識して、 人生100年時代とも呼ばれる時代において、「大人の学び」の姿勢を追求していこうという考え方
・統合する視点(どのように学ぶか): 自らの視野を広げ、多くの体験や経験、能力、キャリアを「目的実現のため」に統合させ(組み合わせ)ていくこと。「考え抜く力」や「チームで働く力」が重視される
・目的視点(どう活躍するか): 自己実現や社会貢献に向けて行動すること。価値のある創出に向けた行動をするための力として、「前に踏み出す力」がより重要視される
言い直すと、社会人基礎力の3能力に加えて、「アンラーンを取り入れていこう」みたいなことでしょうか。
確かに、Open AI社の『Chat GPT』などの生成AIが次々と出てくる時代ですから、「新しい学び」を取り入れ続けることは欠かせなくなるでしょう。
おそらく遠からぬ未来では、「3能力12要素」だけでなく、「3つの視点」まで含めて考えていくことが大切になりそうですね。
なお、ここまでの内容を分かりやすくまとめた図が下記です。
また、社会人基礎力についてはこれらの記事もご参照ください
・人生100年時代の社会人基礎力について
・ポータブルスキルの要素と種類とは
「基礎学力」とは?
社会人基礎力は、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要で基礎的な力」のことでした。
それでは、「基礎学力」とは何なのでしょうか?
基礎学力とは、「読み・書き・計算などの知識や能力」を言います。
いわゆる「読み・書き・そろばん」(30代前後の若い世代にも伝わる言い方に直すと「読み・書き・パソコン」でしょうか?)です。
主に学習をするための必要な情報を読み取り、考え、言葉に表すというプロセスがメインとなっています。
基礎学力の例を5教科で表すと、
・国語:小学校6年間で習った漢字は全て読んで書ける
・算数:九九を最後まで間違えずに計算できる
・理科:植物の発芽条件が分かる
・社会:都道府県や都道府県庁所在地が分かる
・英語:簡単な単語を並べた会話ができる
などが挙げられます。
ちなみに、基礎学力には「広義のもの」と「狭義のもの」があり、「広義のもの」は既に説明した通り、いわゆる読み・書き・そろばんです。
一方、「狭義のもの」とは、各教科それぞれに対する基本的な知識や能力を言います。
要するに、例えば国語であれば、覚えた漢字や文法技術、表現技術を使い、文章を書き・話すことが狭義の基礎学力になるわけです。
言い換えるならリテラシーというところでしょうか。
基礎学力は「義務教育の間に身に付けるもの」とされているので、大人であっても時々振り返ってみることも肝心かもしれませんね。
「社会人基礎力」と「基礎学力」の違い
ここまでそれぞれ説明してきた「社会人基礎力」と「基礎学力」。
違いは分かりましたよね?
まず、そもそもの習得年齢が違います。
・社会人基礎力:主に就職以降
・基礎学力:義務教育期間
そして定義も違います。
・社会人基礎力:職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要で基礎的な力
・基礎学力:読み・書き・計算などの知識や能力
そうは言っても、基礎学力のない人が社会人基礎力を身に付けているとは到底考えられないですよね。
つまり、基礎学力なくして社会人基礎力は身に付かないわけです!
「できるステキな大人」になりたいのであれば、自身が最低限の基礎学力を身に付けているかをこまめに振り返っておくべきでしょう。
まとめ
社会人基礎力は、職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要で基礎的な力で、主に就職以降で磨いていく力です。
一方、基礎学力は、読み・書き・計算などの知識や能力のことで、義務教育年齢の間に身に付けていく力です。
必要とされる時期は全く別ですが、基礎学力のない人間に社会人基礎力は身に付きにくいと言えます。
そのため時々自身のリテラシーを振り返ってみることが肝心になるでしょう。
基礎学力という土台の上に社会人基礎力という上物を組み立てて、「仕事のできる社会人」を目指しましょう!
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