従業員エンゲージメント
エンゲージメント新戦略:これから始める中堅中小企業の仕掛け
皆様、こんにちは。
今回は、「これから始める中堅中小企業のエンゲージメント新戦略」についてご紹介します。
会社概要
まずは、会社の概要と自己紹介をいたします。
2022年に設立した弊社は、「革新的な人材育成環境を創造し、人材の可能性を支え、人的資本をアップデートする」というパーパスを掲げています。その実現のために、主な事業として、育成プログラムとなるスキルマップの設計・構築、またそれらを効果的に運用するためのPDCAシステムスキルマネジメントシステム「skillty」の開発と販売を行っています。
設立の想い
私は、1976年生まれの48歳です。NTT東日本へ新卒入社し、その後、2011年にITエンジニアの派遣会社を設立しました。
設立後は、エンジニアの人材不足の課題を解決するために20代の未経験者の採用に力を入れましたが、大きな離職問題に直面。従業員エンゲージメントの重要性に気付き、中小企業では異例の7年間エンゲージメント追求をし続け改善して参りました。
その結果、エンゲージメントスコアを業界No.1まで押し上げ、さまざまな恩恵を得ることができました。これらの経験をまとめた書籍『従業員エンゲージメントを仕組み化するスキルマネジメント』を出版した後、スキルティ株式会社を立ち上げて、IT企業のみならず、さまざまな業界での支援をさせていただいています。
本記事では、私たちの失敗談も交えながら、中堅中小企業が効果的にエンゲージメントを向上するためにお役立ちできる情報をご提供していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
従業員エンゲージメントとは
はじめに、「従業員エンゲージメント」について解説します。
これは、企業と従業員の相互理解と相思相愛度合いを指します。簡単に言うと、社員が会社にどれだけの熱意と貢献意欲を持っているかを表す指標です。
エンゲージメントが高い企業は、生産性や利益率、顧客満足度、さらには株価まで向上すると言われています。現代の労働市場では、人材確保と流動性の高さからエンゲージメントが経営戦略の重要な要素となっています。
日本の従業員エンゲージメントは最下位?
ところが、日本企業は大きな課題に直面しています。それは従業員エンゲージメントの異常な低さです。
ギャラップの調査によると、日本は145カ国中最下位で、熱意と貢献意欲を持つ社員はわずか5%です。これは、国際比較で低迷する生産性と密接に関係してると考えられます。特に、日本経済を支える中堅中小企業において、生産性向上は国の競争力を高める鍵です。
この低迷のひとつの要因として、賃金の低さが関わっていることは間違いないかと思います。
人材投資や能力開発への関心の低迷
そして、それ以上に深刻なのが人材への投資不足です。
2022年の経済産業省資料によると、日本の人材投資が世界的に低いことがわかっています。企業が人材育成に十分な投資を行っておらず、さらには、個人もビジネススキルを高める学習をしていないという衝撃的な結果が明らかになったのです。
ヒトへの投資は単なるコストではなく、未来への投資です。投資をしなければ、学びの文化も形成されないのかもしれません。
成長環境と売上高・株価の相関性
ここで、2022年8月7日の日経新聞に、企業の業績と育成に関する興味深い記事がありましたのでご紹介します。その内容は、2017年〜2021年の5年間の売上高の伸びを、こちらの8個のスコアとの連動性で検証したものです。
この8個のスコアのうち、最も業績と関係性があった項目は「人材の長期育成と20代の成長環境」でした。さらに、株価に関しては「20代の成長環境」が一番でした。
エンゲージメントの源泉とは?
これらのマクロ的な情報から、エンゲージメントと生産性向上のキーは能力開発にあると考えます。
有名な格言で「事業はヒトなり」とありますが、ヒトはビジネス上では、能力とスキルが核となります。そのため、成長を支える環境を整備し、スキルアップとリスキリングを促進することが重要です。
個々の成長はワークエンゲージメントを高め、主体性やリーダーシップを芽生えさせます。さらに、組織への貢献意欲も高まり、組織全体の生産性も向上。これは、会社のブランディング強化や人材の魅力向上にも寄与し、ステークホルダーにも好影響を与えます。
しかし、中堅中小企業やスタートアップではリソースの制約からこれらの環境を整えることが難しいのが現実でしょう。そこで、私の経験から限られたリソースでどのようにこれらの課題に対処し、改善を図ってきたかを共有します。これが皆様の企業のエンゲージメントと生産性向上に役立てば幸いです。
離職率29%のエンゲージメントスコア
弊社は8年前に離職率30%という危機的な状況に直面しました。
そのターニングポイントで、私たちは従業員エンゲージメントの重要性に目を向け、サーベイを導入することを決意しましたが、実はサーベイを開始することには抵抗がありました。結果を見て現実を直視することへの恐れが非常に大きかったのです。ですが、崖っぷちでしたので思い切って踏み切りました。
リンクアンドモチベーション社のエンゲージメントサーベイを採用し、最初のスコアはこちらのように偏差値47.8という結果になりました。これは、偏差値50が平均であることを考えると、平均以下でした。
サーベイには多くの洞察が含まれており、弊社は特に制度待遇が弱みとして分析されました。さらにアンケートの声として、基本給だけではなく、住宅手当などの給与に関する不満、昇給・昇進の構造、評価方法が不透明であることへの不満が顕著でした。それに加えて、「社長はどのような会社を目指しているのか方向性がわからない」という声も多くありました。
これらのサーベイを踏まえて、特に不満足だった弱みの領域を優先して取り組む施策を講じることにしました。
組織全体の不満解消に向けて
住宅手当などの一律の賃金上昇は、予算が限られている中小企業にとって頭の痛い話で、大きな負担です。そこで私たちは、査定に対する納得感を高めるために、人事評価制度の見直しに着手しました。これには、会社の方針やミッション、ビジョン、バリューを明確化し、それらに基づく期待される人材像を定義することから始めました。
評価項目と昇進条件をきちんと設計し、「期待する人材像に到着したら、しっかりと給与を上げます」という理解しやすい形に落とし込んだのです。運用した結果、手当の不満や「給与が低い」「評価に納得しない」などの声は減ってきました。
さらに、新入社員の早期離脱を防ぐために、研修制度をはじめとするオンボーディングの施策や、その後のマネジメント強化としての支援行動(特に1on1)にも力を入れていきました。
とにかく離職を改善するために不満を解消しようと注力していった結果、組織全体のエンゲージメントスコアは偏差値50の平均値を超えるようになりました。ただ一方で、施策を増やしていくことで管理者の負担が高まり、特にプレイングマネージャーの偏差値が下位2%にあたる偏差値27.6と驚くべき数値に陥ってしまいました。プレイングマネージャーは将来の会社を担うハイパフォーマーなので、これは会社にとって危機的な状況です。
ハイパフォーマーとなるプレイングマネージャーの声
その原因を追究すべくハイパフォーマーにヒアリングしたところ、部下マネジメントに関する不満が多く挙がってきました。
・「個人の目標もある中で、部下のヒアリングやマネジメントに多くの時間が費やされてしまう」
・「若手メンバーの成長が遅く、仕事を任せられない」
・「そもそも、どのように育成すればいいのかわからない」など。
そういった状況で、部下が離職すると「教え損だった」と辛辣な意見を向ける管理職もいて、育成やマネジメントに消極的な意見が出始めました。結果として、管理職のエンゲージメントは急速に低下し、偏差値は20という驚くべき低さにまで落ち込んだのです。これは全国調査対象の下位2%に相当します。
管理職の寄り添い疲れが顕著になり、疲労感、疲弊感は最大化してしまいました。リクルートマネジメントソリューションの調査でも、管理職が最も悩んでいることはメンバーの育成だそうです。これからの多様性、Z世代、大転職の波の中で人材育成の課題はますます厄介なものになっていくことが想定できます。
育成方針の不明確さによる影響
このように、人材育成環境が不十分な状態でマネジメントを強化していっても、メンバーが育たずにぬるま湯の状態になったり、仕事が上手くいかずに将来の不安が募ったりします。
管理職も育成や指導に疲弊していくため、結果として、会社全体の生産性も下がってしまう結果につながります。とはいえ、このことは逆に言うと、人材育成の方針が明確であれば、さまざまな施策が成功に導かれる可能性があるという気付きにもなりました。
人材マネジメントの4つのファクター
ただ、能力開発の環境構築には時間とコストがかかり、成果が直接的に現れるまでには時間が必要であるため、短期的な成果が特に重視される中小企業では、能力開発は後回しにされがちです。実際、私たちも即効性のある他の施策に気を取られがちでした。
離職者の声や不満を収集すると、つい目先の解決策に飛びついてしまいがちです。しかし、ここで立ち止まり、「なぜこれらの施策が機能不全を招くのか」について深く考察する必要があります。次に、この傾向を理解するための理論的な枠組みについてご紹介していきます。
不満足と満足に相関する要因とは
それが、レデリック・ハーツバーグの「動機付け・衛生理論(二要因理論)」であり、「満足」に関わる要因と「不満足」に関わる要因は別のものであるとする考え方です。
不満足に大きく影響する要因は会社の衛生要因や環境であり、順番に会社の方針、監督技術となるマネジメント、人事評価に関連する給与、対人関係、作業環境になります。これらはまさに私たちが手を打っていった施策です。
逆に、満足にかかわる要因は、本人の動機、内的要因であり、順番に、仕事の目標達成、承認、仕事そのもの、責任感、昇進と成長に関わる要因になります。
離職率が高いと、どうしても不満要素の声が多くそちらに目がいきがちですが、このグラフからもわかるように、不満足の要因、会社の環境をいくら改善しても満足度は高まりません。この理論と実体験を踏まえて、弊社では能力開発、成長環境の方針に舵を切る決意をしました。
エンゲージメントを高める新戦略
この失敗と課題点を受け新たな打ち手として考案したのが、まずは「成長環境の構築」です。環境を整えて、能力開発を軸に人事評価制度、会社方針、対人関係の施策を接続していく方法にシフトしました。
このことが結果として社員の不満足を解消するだけではなく、満足度、エンゲージメントを大きく高める施策となりました。そして、成長環境を構築するにあたり最もインパクトしたことは「スキルマップを整えること」でした。
ヒトではなくスキルマップで導くこと
なぜ「スキルマップを整える」なのかと言うと、先ほどの管理者の不満の声にあがったように、ヒトで導くと個人の力量や業務量に依存してしまいます。もしくは、そういった人材を用意できない場合もあります。
これに対してスキルマップに基づく育成プログラムは、自己完結で進めることができ、管理者の負担とバラつきを解消することができます。また、育成の再現性も高まるため、組織として一貫性のある成長環境を構築することができるのです。
成長環境を構築する3つのステップ
では、ここからはスキルマップを作成する方法をご紹介します。それは、「スキルの選定」「アクションの明確化」「キャリアとの接続」の3つのステップです。
まず、スキルの選定です。スキルと言うと専門スキルや自社固有のスキルに走りがちですが、どの職場でも活躍できるポータブルスキルや、チームで結果を出すためのスキルなど網羅的にピックアップすることが大切です。
ノンテクニカルスキルの重要性
ここで参考にしたいのが、ロバート・カッツが提唱したスキルセットの概念です。それは、スキルを「テクニカルスキル」と「ノンテクニカルスキル」に大きく分類し、さらにノンテクニカルスキルを2つの基本スキルに細分化した概念です。
テクニカルスキルは、具体的な作業能力や専門知識を指し、職位が上がるにつれて相対的な重要性は減少します。対照的に、ヒューマンスキルとコンセプチュアルスキルとなるノンテクニカルスキルの重要性は増大します。これらのスキルは互いに深く関連しており、そのバランスが重要です。
ノンテクニカルスキルの重要性ついて、日本医療機能評価機構の事例調査によると、医療事故の54.6%がノンテクニカルスキルの不足が原因とされています。具体的には、エラーに対する警戒心の欠如、チーム内での協調性不足など、ヒューマンエラーが事故の大部分を占めていると指摘されています。
これはIT業、製造業、サービス業など、どの業種でも当てはまることなのではないでしょうか。このような事実を踏まえると、単に技術的なスキルを伸ばすだけではなく、ヒューマンスキルや思考力などのノンテクニカルスキルについてもピックアップが必要です。
「社会人基礎力」について
ノンテクニカルスキルにおいて、私が調査してピックアップしたのが、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」です。
社会人基礎力は、3つの主要な能力と、それを具体化する12のスキル要素が網羅的に構成されています。具体的には、自ら進んで業務に取り組む「前に踏み出す力」、問題や課題に対して深く考える「考え抜く力」、そして、他者と協力して成果を上げる「チームで働く力」がその3つの能力です。
ビジネスパーソンのOS
社会人基礎力は基礎学力や専門知識を活用する力として定義され、コンピュータにおけるOSのような存在と考えられています。OSがスムーズに機能することで、各種のアプリケーション、すなわち専門スキルが本来の力を発揮できるということです。
さらに、社会人基礎力は各業界で必要とされる横断的なスキルとして位置づけられ、持ち運び可能な「ポータブルスキル」として再評価されています。これが備わっていることで、社員も非常に興味を持って自身のキャリアの指針として活用できると思います。
専門のスキルマップ作成に参考になるサイト
技術力などの専門スキルについては業種ごとにピックアップしていきます。この際に参考になるのが、こちらのサイトにあるスキルの辞書です。
ITの専門スキルは、IPAを参考にしてください。また、IT以外の業種や、社会人基礎力以外の共通スキルについては、iCD協会様が提供する内容が参考になります。
ちなみに、少し宣伝にはなりますが、こちらの共通スキルについては弊社が提供させていただきました。ぜひ、参考にしてください。
何のスキルを身に付けるか スキルマップ
こういったスキルをピックアップしたスキルマップの一例をご紹介します。
先ほどご紹介した社会人基礎力、専門スキルや特殊スキル、管理職はマネジメントスキルなど網羅的に構成します。このようなスキルマップを通じて人材育成の指針とします。
アクションの明確化
スキルマップを作成した後に必要となるのは、それらのスキルを体現するための具体的なアクションを言語化するステップです。スキルの習得には再現性が必要であり、そのためには明確な基準を含む言語化が不可欠となります。
求める行動特性を明らかにする
アクションリストの作成には、実際の現場での観察が有効です。
例えば、部下が自発的に動かない、独りよがりの行動をするなどのケースがあったとします。これらは主体性や実行力の不足が原因であり、上司からは「主体性が足りない、自ら仕事をとりにいこう」と指導されることが一般的です。
しかし、具体的な行動指針や基準が示されないと、新人はどのように行動すればよいかがわからず、悩んでしまいます。これを放置すると、自信をなくし、意欲は削がれ、不安や不満から離職に繋がるといったケースに陥ることもあるでしょう。
特に、Z世代のように個別指導を求める従業員に対応するためには、行動特性をさらに細分化し、具体的に指導する必要があります。
このことを踏まえて、「主体性を示す」という指示に対しては、仕事を引き受ける際に納期や成果物のイメージ、目的を確認し、進捗の早い段階2割で報告し、仕事完了後に次のタスクを明示するなど、具体的なアクションを提示することが効果的です。
このプロセスは仕事のアルゴリズムを作成するようなもので、さまざまなアクションをピックアップしていきます。このように、アクションを具体化、言語化することでスキルの実践を促進します。
仕事のアルゴリズムを定義する
それらを体系的にまとめるために、先ほどのアクションを5つセットにして抽象的な特性やスキルにグルーピングし、このセットをスキルボックスとして定義しました。さらに、アクションが達成できていたかという具体的な測定が可能なよう達成基準も設けました。
このようなスキルボックスにより、社員は求められる抽象的な行動特性やスキルを職場でどのように発揮すればよいか具体的に認識できるようにしました。
スキルボックスでスキルマップを生成
そして、社会人基礎力をはじめ、マネジメントスキルまで網羅してスキルボックスをくみ上げ、さらに精度の高いスキルマップを生成しました。この共通の物差し、仕事のアルゴリズム化により、部下に求めるスキル習得の指導や評価のばらつきを解消することができました。これらを網羅的に上げることにより、多様なスキルの人材を育成、承認、評価して、受け入れることも可能になりました。
キャリアとの接続
このようにして、実践的なスキルマップを作成することができましたが、今度は最後の仕上げの段階として、それらを職位や職種、それぞれの立場、現状のスキルが異なる各社員に落とし込む必要があります。それには、自社のキャリアパスとの接続が必要です。
【職種・職位】キャリアパスの見える化
まずは、自社で実現できるキャリアのステップを可視化します。例えば、こちらのように職種と職位にしっかりと分けて定義します。これにより、自身の立ち位置と目指す方向が大枠見えることができるため、自身の将来に対する不安が軽減され、目標や方向性、そのためのモチベーションも醸成することができます。
【職種】キャリアアップを生成する
そして、職種に対して具体的なキャリアステップを明示するために、目指すべき人材像と関連するスキル、習得時期を明確に設定し、スキルベースのキャリアマップを作成します。次に、このキャリアマップを指針としてスキルの習得目標を設定していきます。これにより、中長期目線での人材育成のPlan、道筋が一目瞭然となるのです。
【職位】昇進条件の明確化と見える化
また、職位に対する昇進やキャリアアップの条件を明確にすることも重要です。例えば、主任、係長、課長に昇進するための具体的な条件やスキルセットを透明にして共有します。スキルセットについては、先ほどのスキルマップから職位で必要となるスキルを選定して明示することで、キャリアとの接続が可能になります。
こういった、職種、職位とスキルマップの接続により、キャリアップ、昇進が具体的なものとして認識ができるため「ここを目指して頑張ろう」と本人のモチベーションを引き上げることができるのです。
この透明性が社員の成長の道筋を明確にし、組織への貢献を促します。このように、職種、職位で明確なスキルベースの基準を設けることがキャリアの不安を解消し、かつ、組織貢献へと接続する設計図となるのです。
なぜスキルマップが育成に効果的化か
スキルマップがなぜ育成に効果的なのかをご理解いただけたかと思いますが、ここで改めてまとめたいと思います。
・キャリアマップに基づいたスキルの明示により、自ら意識的に取り組めるようになる
・アクションリストとして行動内容が言語化されているので、効率的な成長ができる
・習得したスキルがわかるので、成長実感や、自己効力を心理的に得られる
二要因理論で取り上げたように、従業員が最も満足度が高まる要因は仕事の達成感、すなわち「成長」です。満足度が高まりエンゲージする人材へと変化を遂げていくことこそが、スキルマップを活用する価値となります。
スキルマネジメントについて
それには、会社方針の起点となるミッション、パーパスから、経営指針と組織指針、昨今話題となっているガバナンスの指針を明確に定め、現場で活動できる目標、評価体系、ガイドラインへと具現化させるステップが必要です。それらを具現化したものをスキルマップに接続していくことで、その指針をもとに活動する人材の量と質を高めることができます。
弊社では、このスキルマップをもとにしたマネジメント手法を「スキルマネジメント」と提唱しています。この経営の目的から現場まで一貫した方針により、企業が目指す姿や方向性を従業員が理解・共感して、達成のために自発的に貢献する組織を築き上げます。ミッションなど上位概念の意味や意義もしっかりと伝えながら、組織のDNAとして浸透させることができるようになるのです。
労働集約型の事例(ITエンジニア派遣編)
スキルマップ接続について、労働集約型の事例をご紹介します。経営方針として、仮に収益率を高めるKGIを設定した場合、その内訳は売上を上げるか、コストを下げるかになります。
「今期は売上を上げるために値上げをする」と定めた場合、顧客の満足度に焦点をあて、それを高める要因となるスキルは何かをピックアップしていきます。このピックアップは、顧客が何を求めているのかを営業側でヒアリングするため、傾聴力も大切になってきます。これが、スキルのKPI化です。
フィードバックの質を高める
このようにKPIを定めると、1on1などのMTGの質が高まります。網羅的なスキルマップでの育成により、本人の強み、弱みが可視化され、多様性、個人主体の能力開発を重視することができることはもちろん、先ほどの会社方針の重点スキルを期待値として伝え、スキルギャップとしてフィードバックすることで組織主体の人材育成も可能になります。つまり、多様性とパーパスを両立する人材育成が可能となるのです。
スキルマネジメントを実装した成果
こういった経営戦略と組織戦略をスキルマップで接続してスキルマネジメントを実践することにより、私が経営するIT企業においてはビジネススキルの期待値の伝達と技術継承が容易になりました。顧客満足度の向上に加えて成長意欲も高まり、リスキリングによる技術力の向上で値上げ交渉が上手くいき、利益率がアップしました。
育成については、スキルマップを指針にすることにより、マネージャーの属人的な人材育成から脱却し、マネジメント層のエンゲージメントも大幅に向上しました。雑談が多かった1on1も非常に質の高いものへと変わり、信頼関係が醸成されて、全社員のエンゲージメントは同業種でNo.1の実績を上げることとなったのです。
組織への実装方法
ここまで、エンゲージメントの新戦略としてスキルマップを起点としたスキルマネジメントの手法をお伝えしました。では、それらをどう現場で効果効率的に実践、運用していくのかについてお伝えしていきます。
組織に実装する上で障壁
スキルマップは、導入、運用の敷居が高いと感じられる方が多いと思いますが、その3つの壁がこちらの図で示されています。スキルを整理するリソースが足りないため始められない(導入の壁)、スキル習得の優先順位や習得の判断基準の不明確で使いこなせない、管理職の負担が高まる(運用の壁)、分析や評価との整合性があわず使いこなせな(活用の壁)です。
システムで無理なくPDCAを回すこと
これらの壁を乗り越えて組織のDNAとして定着させるには、やはりヒトに頼るのではなく、システムで実現することが必要不可欠です。こういった課題を可決するために弊社が7年間の運用で築き上げたスキルマップとPDCAを回すシステムが「スキルマネジメントシステム」になります。
エンゲージメントの勘違い
次に、エンゲージメントと従業員満足度の違いについて解説します。弊社の例のように、マネージャーが部下と接するうちに、エンゲージメントと従業員満足度の区別がつかなることがあります。従業員満足度に傾倒してしまうとゆるい組織が生まれるため、管理職の負担が増えてマネージャー陣の不満足が高まり、離職に繋がります。
外資系コンサルティング会社 ウイリス・タワーズワトソンの調査によると、従業員満足度に偏った場合、中長期的な業績向上は見られないことがわかっています。従業員が自身の物差しで評価するのが従業員満足度です。やるべきことを後回しにして、やりたいことを優先してしまう行動特性とも言えるでしょう。
この従業員満足度とエンゲージメントの違いを認識し、従業員満足度に偏らない組織設計が重要で、なおかつ会社と社員の目的・目標が一致し、従業員がそれを達成することが大切です。
大きな不満を解消することも必要ですが、企業のリソースは限られています。ある程度解消ができたら、自社でコントロールできるエンゲージメントを追求することが組織構築の正攻法と言えるでしょう。
成長環境が無いと起こること
以前、弊社ではプロジェクト先で1on1をはじめとするマネージャー陣による手厚いサポートを試みました。しかし、今度は管理職の不満が増大していきました。
「部下マネジメントに多くの時間がとられてしまう」「若手メンバーの成長が遅く、仕事を任せられない」といった部下への寄り添い疲れの声が多く挙がり、「苦労して育てた人材の離職が続いたときには、これは教え損ですよ」「育成はやりたくない」「その方針に反対する」という厳しい言葉も直接受けました。そして、管理職のエンゲージメントは急降下したのです。
これから多様性と大転職時代を迎える社会の流れの中で、人材育成はさらに悩ましい問題にもなっていました。
仕事の達成感を得るために必要なスキルは?
組織全体として、仕事の達成感、すなわち結果の質を高めるためのアプローチとして、ダニエル・キムの「組織の成功循環モデル」が参考になります。
このモデルは、関係の質の向上が思考と行動の質を高め、それが結果の質を向上させるという連鎖を示しています。逆に、結果の質から高めようと、数値目標や役割分担に拘り過ぎると関係性が壊れてそれぞれの質も落ちてしまうため目指す順序も非常に大切です。
この考え方に基づき、関係性、思考、行動の質に関連するスキルをピックアップすることが能力開発における効果的な戦略となります。
また、この各要素に関連する能力のフレームワークとして、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」が最も現実的でフィッティングすると考えました。実際、この社会人基礎力により、より実践的で成果を出すための指針とすることができるようになりました。
サービスのご紹介
最後に、サービスのご紹介をします。スキルマネジメントシステム『skillty(スキルティ)』のコンセプトは、「ヒトが育てるから、スキルマップで育つへ」。
Skilltyは、スキルとアクションで作成したスキルマップで人材育成を仕組み化を行います。自己完結型のPDCAクラウドで育成マネジメントの負担を軽減して、人的資本を無理なくアップデートすることが可能です。
skillty設計のポイント
このシステムの設計は、「PDCAサイクルを誰もが簡単に継続的に回していくこと」に主眼を置いています。なぜ人材育成がうまくいかないかと言うと、多くの場合はこのPDCAが回っていないからなのです。
Planのポイント:アクションの見える化
スキルティでは、先ほどご紹介したスキルマップをデフォルトでご用意しているので、今職場にスキルマップがなくとも、リソースを割くことなくすぐに用意・活用いただくことが可能です。
もちろん、職種職位によってスキルマップのカスタマイズも弊社で可能で、そのデータを反映してシステムに登録します。そして、利用者は登録したアクションリストをWEBブラウザを使って、毎週または毎月、アンケート形式で推進していくこととなります。
Doのポイント:明確な基準のフィードバック
アクションの達成結果を確認するために達成コメントを入力していただきますが、これによりスキル習得の内省化、定着を促すことができます。
また、chatGPTのAPIを活用することで、そのアクション結果が習得基準を満たしているのか、何が不足しているのかなどの判定基準が的確にフィードバックされます。AIによる高い基準での習得サポートが可能となるため、マネージャーのフィードバック工数も削減できます。
Checkのポイント:課題の特定
やりっぱなしの状態を防ぐために、Check・振り返りの機能も用意しています。
改善サイクルを回すうえでは、特に課題の特定が重要です。各スキルの詳細な習得状況をレーダーチャートにより一目で確認します。自身の強み、弱みの棚卸も瞬時に行い、可能成長課題が一目でわかります。
改善すべきスキルギャップについては、具体的に言語化されたアクションとして把握でき、次の目標も具体的に推進することができます。
また、1on1でも活用可能です。上司は部下の現状のスキル習得状況を瞬時に把握できるため、事前の準備時間が大幅に削減できます。さらに、改善アクションが言語化されているので、新米マネージャーでも的確な指導・支援が可能です。
Actionのポイント:行動の優先化
ただ闇雲に次のアクションを推進するのではなく、先ほどの課題をもとにシステム上で優先度を設定して推進することができます。
被評価者はお気に入りマークを、評価者はLETSTRYマークを部下につけて必要なスキルを優先して推進していくことが可能です。この一連のサイクルを簡単に実行できることで、スキルマップ運用の形骸化を防ぐとともに、確実なスキルアップを推進し続けることができます。
スキルマップの習得度と評価との連携
また、期末のスキルの出来高を、既存やオプションで用意しています。
人事評価システムと連携して評価点として算出しますが、これはアクションリストの明確な基準で査定されたものになるため、非常に納得度の高い評点を提供することが可能になります。
運用を促すための仕掛け
さらに、運用を促すための仕掛けとして、スキル習得に関するトロフィー機能もあります。
これを活用することで、承認、賞賛、表彰の機会を増やして、尊重する文化を形成するのに役立てることができます。
成長に影響を与えるコンディション把握
また、成長阻害となりうるコンディションの状態を可視化することで早期のフォローアップが可能になるため、社員との信頼関係が高まり離職の防止にも繋がります。これらを活用して、ウエルービーイング経営を実践していくことができます。
まとめ
エンゲージメントを高める戦略として、離職率が高い場合は不満足の解消をしていくことになると思いますが、企業のリソースには限りがあると思います。そのため、すばやく成長環境のステップに移行して、スキルマップで設計を構築し、育成の指針とすることが重要です。
もちろん、リソースが許せば、同時並行で推進していくことも可能でしょう。そして、企業理念から始まる経営戦略とスキルマップを接続して、人材マネジメントを推進してください。
ここまでで不満足の解消、成長環境の構築、企業理念の浸透など、今回お伝えしたかった新戦略は以上となります。
参考資料:書籍『スキルマネジメント』
最後に、参考書籍のご案内です。
これまでご案内した内容について、エンゲージメントの視点で詳細記した書籍を2月に刊行していますので、こちらもぜひ参加にしてください。Amazonページの書籍紹介欄に、『エンゲージメントの高い組織になるチェックポイント』をご用意しています。ぜひ、セルフチェックにご活用ください!
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