働き方改革
働き方改革と働きがい改革の違い
労働者にとってすっかりお馴染みとなった「働き方改革」。
しかし、「働きがい」は改革されたのでしょうか?
「働き方改革で働き方が改革されたなら、働きがいも改革されたんじゃないの?」
なんて思っているそこのあなた!
もしかすると、「働き方改革がされた結果、働きがいを失っている」かもしれませんよ?
今回の記事では「働き方改革」と「働きがい改革」というよく似た言葉を解説して行きます。
2つの言葉の違いを知って、「働きがいのある働き方改革」について考えてみましょう。
働き方改革とは
働き方改革とは、厚生労働省が2019年に発表した「日本が国家レベルで取り組んでいこうとする働き方の改善案」です。
具体的には、働く人びとが個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革と説明されます。
この働き方改革は、いわゆる「アベノミクス」の一環として、2019年4月に『働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)』が順次施行されたことで、一躍誰もが知る言葉となりました。
ちなみに、『働き方改革関連法』は下記のような「労働関係の法律を改正するための法律」であり、さらに「それによって加えられた改正内容の総称」として使われてもいるので、「労働に関する新しい法律ができたのではない」ことは常識として押さえておきましょう。
『働き方改革関連法』の対象となった法律の例
・労働基準法(労働条件の最低基準となる事柄などを定めた法律)
・労働時間等設定改善法(労働者が能力を有効に発揮し、健康で充実した生活の実現と経済の発展を目的に、企業に労働時間などの設定の改善を求める法律)
・労働安全衛生法(労働者の安全と衛生についての基準を定めた法律)
・じん肺法(アスベストなどによる呼吸器系の病気に対する予防対策などをさせる法律)
・パートタイム・有期雇用労働法(短時間勤務労働者の雇用管理などについて定めた法律)
・労働者派遣法(派遣労働者の権利を保護や人材派遣会社などが行う労働者派遣事業が適切に運営されることを目的とした法律)
・労働契約法(労働契約に関する基本的な事項を定めた法律)
・雇用対策法(経済・社会の発展・完全雇用の達成に役立てるための法律)
労働に関する代表的な法律だけでもこんなにあるんですね。
とは言え、「なぜこれらの法律を改正してまで働き方改革をしなければならないの?」とも思いますよね。
そこで、「そもそもなぜ働き方改革は必要とされているのか?」という背景にもスポットライトを当てていきましょう。
働き方改革が叫ばれるようになった背景
働き方改革は下記の4点が重要課題となっています。
・働き手を増やす
・出生率を改善し、「将来の働き手」を増やす
・労働生産性を増やす
・雇用形態で差のない公正な待遇の確保
おそらく「労働力減少」や「少子化」というワードが脳裏に浮かぶのではないでしょうか?
なぜなら働き方改革は、当時の内閣総理大臣・安倍晋三氏が「第3次内閣改造の目玉」とした「一億総活躍社会」の実現に向けて必要だったからです。
ちなみに「一億総活躍社会」とは「50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しもが活躍可能な社会を実現すること」を言います。
しかし、既に多くの人が気付いているように、一億総活躍社会は理想論でしかないんです。
その理由は、日本は少子高齢多死社会を迎えつつあるからです。
「どういうこと?」と思った人もいるはずなので、簡単に説明しますね。
日本では「人口の大派閥」が高齢化してきている!
日本の人口ピラミッドは「ひょうたん型寄りのツボ型(老齢人口と幼年人口が少ない)」と言われていますが、「遠からず大きく変わる」とされています。
なぜなら、「人口の大派閥」が高齢化してきているからです。
日本の人口では、
・終戦直後(1947年〜1950年)に生まれた第1次ベビーブーム世代(いわゆる「団塊の世代」)
・第1次ベビーブーム世代(団塊の世代)の子どもに当たる第2次ベビーブーム世代(いわゆる「団塊ジュニア世代」:1971年〜1974年生まれ)
が2大勢力として人口上の割合を占めてきました。
とは言え、団塊の世代は70代、団塊ジュニア世代はアラフィフですよね。
つまり、「この先何が起こるか?」というと、「人口上の2大派閥が揃って高齢化してくる」というわけです!
実際、社会保障上の問題としては、
・2015年問題: 第1次ベビーブーム世代(団塊の世代)が老年期を迎えることで「年金受給年齢層が800万人に膨れ上がる」ことで起こる社会保障上の問題。労働人口の減少や年金財政に対する圧迫が懸念された。
・2025年問題: 第1次ベビーブーム世代(団塊の世代)が中〜後期高齢者になることで起こる社会保障上の問題。医療費の増加や介護、年金などに対する問題が懸念されている。
もちろん、団塊の世代の子どもである団塊ジュニア世代も「遠からず老年期を迎えていく」わけですよね?
そうなると、「ますます労働力が減少していく」というのは火を見るより明らかでしょう。
労働力も減少中……
「人口の大派閥の高齢化」は、日本の労働力にも大きな悪影響を与えます。
労働力は、「生産年齢人口」を指標に表せます。
ちなみに生産年齢人口とは、労働に従事している(従事できる)年齢である15歳〜64歳の年齢層のことを言います。
そうは言っても最近は「中学校を卒業しての就職」はほぼ聞かないので、生産年齢人口を「15歳から」とするのも「いかがなものか……」とは思いますよね。
ですが、この生産年齢人口(=労働力)も減少傾向にあります。
そもそも、日本の生産年齢人口がピークだったのは、25年ほど前。
団塊ジュニア世代が社会人として世に出た頃でした。
以降は、「少子化傾向の世代」が社会人になっていったこともあり、生産年齢人口は2013年に「8000万人割れ」をし、 2027年には「7000万人割れ」をすることが予測されています。
さらに、2051年には「5000万人」を割り、 2060年には「4418万人になる」とも予測されています。
現在の生産年齢人口が約7496万人なので、「4418万人」はかなりの減少率ですよね。
そのため、「いかにして労働力を確保していくか」が大きな問題となってきているのです。
だから政府は「働き手を増やしたい」
「人口の大派閥の高齢化」とそれによる「労働力の減少」に危機感を抱いた政府は、働き方改革を行うことで、「働き手を増やそう」と思いたったわけです。
(そのため最近も「異次元の少子化対策」と称した子育て世帯への支援が行われる流れになったわけですね……。)
不足する労働力を補う手段としてすぐに浮かぶのは、「特別技能実習生」などの「外国人労働者」かもしれませんが、国内にも見落とされている労働力があるんです。
それは、「働きたい高齢者層」です!
2017年の内閣府による調査では、高齢者の40%が「働けるうちはいつまでも働きたい」と回答しています。
また、「70歳まで」や「70歳以上」の層まで合わせると約8割が働きたいと思っていることが分かりました。
もちろん、高齢者だけでなく「障がい者」も見落とされた労働力と言えるでしょう。
いわゆる「A型就労」と呼ばれる就労継続支援の事業所に通所する人の中には、「条件さえ整えられていれば一般就労(いわゆる通常の就職)ができる」人も少なからずいます。
そのため、こうした見落とされがちな労働力を活用していくことも、「働き手を増やす」ことの一環になるはずなのですが、まだまだ認知が追いついていないことは悩ましい実状でしょう。
世界からツッコまれた長時間労働
働き方改革の重要課題に挙げられている「労働生産性を増やす」。
とは言え、「労働生産性を増やすってどういうこと?」と思いますよね。
労働生産性とは、労働者1人当たりもしくは労働者1人の1時間当たりの生産成果を数値化させたものを言います。
この労働生産性は、「output(付加価値額や生産量など)÷input(労働投入量(労働者or労働者数×労働時間))」という計算式で求められます。
ではなぜ日本は、「労働生産性を増やす」必要があるのでしょうか?
実は日本の労働生産性はOEDC(ヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38ヶ国の先進国が加盟する国際機関)加盟国中22位。
G7(主要先進7カ国:サミットを開催できる7カ国(日本・アメリカ・イギリス・カナダ・フランス・ドイツ・イタリア)のこと)では「最下位」だったんです!
この数年でも「ジェンダーギャップ指数が過去最低だった」という話を何度か耳にしているので、「日本は変なところで劣等生」みたいな印象を持ってしまいそうですよね……。
実のところ、日本は2013年に国連から「長時間労働を是正するように!」と勧告を喰らっています。
その理由は、
1.労働者の多くが長時間労働を強いられている
2.職場において長時間労働やハラスメントを原因とする自殺が多いこと自体が問題!
ということでした。
実際、日本では「30代〜40代の長時間労働の割合が高い」という傾向があります。
そうはいっても、「長時間労働を拒むと働きづらくなる」という風潮も未だにありますよね。
そもそも「長時間労働を良しとする風潮」は、高度経済成長期(1955年頃から1973年頃)に生まれたものです。
この当時は、「モーレツ社員」と呼ばれた「会社への忠誠心が非常に高く、自らや家庭などを犠牲にしてまでがむしゃらに働くサラリーマン」が「美徳である」とされていました。
令和のZ世代からすれば「心底あり得ない社員像」に映るかもしれませんが、当時はそれが「普通」とされていました。
ですが、全てを犠牲にしてまで仕事をするのは勘弁ですよね。
「老害」なんて言葉もありますが、「古い世代が変わらなければいつまで経っても何も変わらない」のが、島国日本の困った島国根性なのかもしれませんね……。
本当に実現するのか? 同一労働同一賃金
働き方改革の重要課題の1つ、「雇用形態で差のない公正な待遇の確保」。
その代表的な例としてしばしば挙げられるものに「同一労働同一賃金」があります。
同一労働同一賃金とは、「労働生産が同じ人には同額の賃金を払おう」という考え方のことです。
例えば、2000文字のWebマガジンを1時間で3本書き上げられるWebライターが正社員とアルバイトで1人ずついたとしましょう。
彼らの仕事は全く同じですが、正社員の月収は30万円。
一方、アルバイトのほうは月収16万円だとした場合、倍ほど開きがあることになりますよね。
「同じ仕事をしている」のであれば、アルバイトの月収を14万円分増額させることで「平等かつ公正」になるはずでしょう。
とは言え、「正規雇用と非正規雇用ではヒエラルキー上の明確な差があることが前提」の日本において、この考え方が浸透するかどうかは、やや疑問かもしれません。
しかし、政府は「デフレ対策」という観点から、推奨したいようです。
そもそも、日本がデフレ国家なのは、バブル崩壊以降の国策が甘かった側面があるので、「政府の自業自得」とも言えますが、景気が落ち込んでいては働き方改革も進みません。
そのため、政府は同一労働同一賃金を進めていきたいのでしょう。
もちろん、それに向けた布石として、働き方改革のお話の始めにご紹介した「各種労働関係法の順次改正」があることも知っておきましょう。
要するに「政府のやりたいことを実現するために始まった」のが、働き方改革というわけです。
働きがい改革とは
政府が旗を振って進めている労働改善案が「働き方改革」でしたが、「働きがい改革」とは何なのでしょうか?
働きがい改革とは、従業員が「この職場で働きたい」と思えて仕事にも意欲を持って取り組めるような環境作りをすることを言います。
ちなみに、働きがいとは「仕事に対する個人のモチベーション」のことです。
つまり「働きがい改革」は従業員から「この職場のこの仕事を頑張って続けていこう!」と思ってもらえる企業風土を作っていこうという企業が主体となっている取り組みとも言えるでしょう。
では、なぜ企業は働きがい改革へと乗り出しているのでしょうか?
働きがい改革の背景
企業が働きがい改革へと乗り出す背景には、「働き方改革による長時間労働の見直し」ももちろんあるでしょう。
しかし、大きな要因としては、2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」、通称:SDGsを踏まえた社会貢献が考えられるでしょう。
SDGsというと、日本では「エコロジー活動の進化版」のようなイメージが強いかもしれませんが、本来は「地球環境を保護し、貧困や差別を解消していきましょう」という世界的な取り組みです。
SDGsには17の目標に169の基準が設定されており、それを計っていくための232もの指標が設けられています。
このうち、第8目標として「働きがいも経済成長も」というものがあります。
第8目標「働きがいも経済成長も」は、包摂的かつ持続可能な経済成長及びすべての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用を促進することを目標としています。
具体的な基準としては、「各国の状況に応じて、一人当たり経済成長率を持続させる。特に後発開発途上国は少なくとも年率7%の成長率を保つ」や「2030年までに、若者や障害者を含むすべての男性及び女性の、完全かつ生産的な雇用及び働きがいのある人間らしい仕事、ならびに同一価値の労働についての同一賃金を達成する」など12個が掲げられています。
なお、SDGsの細かい内容については、こちらのサイトにまとめられているので、興味のある方は見てみると良いかもしれません。
SDGs一覧表|17目標・169ターゲット・232指標
実際に「働きがいも経済成長も」の詳細を見ると分かるのですが、言っている内容としては「どことなく働き方改革に相通ずるものがあり」ます。
ですが、本当にSDGsを踏まえて働きがい改革をしていくのであれば、項目的に関連する要素のある「貧困をなくそう」や「ジェンダー平等を実現しよう」、「人や国の不平等をなくそう」などにも気を配るべきでしょう。
一方、「SDGsは関係なくて、単純に働き方改革を踏まえてだよ!」という場合は、「働き方改革によるテコ入れが働きがいの邪魔をしていないか?」という点に注意を払うべきと言えます。
なぜなら、「働き方改革の結果、働きがいが邪魔をされてしまうと意味がない」からです。
働きがいのある職場・ない職場
働きやすさと働きがいの掛け合わせをすると、職場の傾向は下記の4つに大別されるそうです。
それぞれの特徴や傾向は下記の通りです。
・働きがいのある職場
働きやすさと働きがいの双方が備わっている。
ライフステージやキャリア観の異なる多様な人材を確保できる。
各従業員がそれぞれ満足のできる活躍が可能。
・見せかけのワークライフバランス職場
働きやすさの高さから「居心地がよい」と感じる従業員は少なくない。
仕事の内容や自身に対する評価について不満感・不公平感を感じる可能性がある。
「急な環境変化への対応力に乏(とぼ)しい組織」である可能性も考えられる。
・やりがいブラック
働きがいが高い分、積極的に仕事に取り組む従業員には「成長機会が多いチャレンジングな環境」ではある。
高い挑戦意欲の持続が求められる反面、「働きづらい」ことから、心理的・身体的負担も大きくなってしまい定着を見込めない。
ワークライフバランス実現が難しい傾向にあり、多様性の受容が難しい
・選ばれない職場
働きやすさも働きがいもないことから、そもそも従業員の活躍自体が難しい。
そもそも求職者の希望に合致せず、人材確保(採用や定着) も困難。
「やりがいブラック」な職場も大概ですが、「選ばれない職場は論外」でしょうね……。
やはり、「企業と求職者はそれぞれが選り好みをしている」と考えておくべきなのかもしれません。
では、「働きがいのある職場」になるためにはどうしていけば良いのでしょうか?
それは、働き方改革と働きがい改革の両輪を噛み合わせることです。
広島県のサイトに、「広島モデル」という活用図式が載っていたので、参考にしてみると良いかもしれません。
両者の違い
ここまでの話を踏まえると、「働き方改革と働きがい改革の違い」はどこにあるのでしょうか?
両者の違いをまとめたのが、下記の図です。
こうしてみると、「名前は似ているものの、本質は違う」ということがよく分かりますよね。
働き方改革は政府主導の政策の1種、働きがい改革は各企業が行なっている取り組みと覚えておけば、間違いはないでしょう。
まとめ
働き方改革は、「政府主導の政策の1種」。
一方、働きがい改革は「各企業が行なっている取り組み」です。
それぞれの違いは図にまとめた通りです。
それぞれの言葉の意味や背景の違いをしっかりと把握して、「働きがいのある職場」を作る社内改革ができる企業を目指しましょう!
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