人材マネジメント
従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントの違い
最近耳にすることが増えた言葉には「ステークホルダーエンゲージメント」などのカタカナ語も多いですよね。
「〇〇エンゲージメント」という言葉はいくつもありますが、「意味は知らないけど何となく雰囲気で使っている」なんてことありませんか?
なんてもったいない!
意味を知らずに使っていては、せっかくの伝わる話も伝わらなくなってしまいます。
今回は、エンゲージメント系の言葉の中でも、「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」の2つに絞ってその違いを探っていきます。
2つの言葉の違いを知って、少し賢い素敵な大人を目指しましょう!
そもそも「エンゲージメント」とは?
本題に入る前に確認しておきたいことが1つあります。
それは、「エンゲージメント」の意味をそもそも分かっているかということです。
分かっている人はこの項目はお飛ばしください。
分かっていないと思う人はそのまま読み進めてください。
それではまず基本的なところから解説していきましょう。
エンゲージメントは、一般的には「約束」や「雇用」、「婚約」などの意味を持つ言葉です。
そのため、ビジネス用語では、「心理的な繋がり」という意味で使われる言葉です。
このビジネス用語としてのエンゲージメントは、今回のテーマである「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」に大別されます。
「従業員エンゲージメント」とは何か?
「心理的な繋がり」を意味するエンゲージメント。
そのため「従業員エンゲージメント」というと「従業員同士の親密度」のようなイメージを持つ人もいるかもしれませんね。
確かに広い解釈をすれば、そうしたイメージもあながち間違いでもないんです。
なぜなら、従業員エンゲージメントとは、「従業員が組織に対して育む愛着や貢献意識」だからです。
「……どういうこと?」と思った人も確実にいますよね。
順を追って説明しましょう。
まず、「従業員エンゲージメント」という概念が定義されたのは、1990年のこと。
今からおよそ30年前ですね。
定義をしたのは、当時ボストン大学心理学教授だったウィリアム・カーン氏という人物です。
ちなみに彼の出した従業員エンゲージメントの定義は次のようなものになります。
ウィリアム・カーン氏の従業員エンゲージメントの定義
「社員が仕事に対して肉体的にも、心理的にも、感情的に打ち込むこと」
その後、時代を経る中で、様々な人が多種多様な定義や解釈を打ち立てていきましたが、それら全てに共通する要素をまとめると、
・従業員が組織に対して育む貢献意識
・従業員が自発的に抱く会社への愛着
という解釈に落ち着くのです。
そのため一般的には、従業員エンゲージメント=従業員が組織に対して育む愛着や貢献意識という説明がされます。
ちなみに、従業員エンゲージメントは次の3つの要素から構成されます。
従業員エンゲージメントの3つの構成要素
・理解度: 従業員における企業理念の理解度
・共感度: 従業員が企業の活動に共感できるかどうか
・行動意欲:従業員が自発的に行動を起こせるかどうか
「ワークエンゲージメント」とは何か?
ワークは仕事。
エンゲージメントは心理的な繋がり。
「『仕事との心理的な繋がり』ってどういうこと?」と思いますよね。
ワークエンゲージメントは、オランダのユトレヒト大学の教授であるウィルマー・B・シャウフェリ氏が定義した概念になります。
ウィルマー・B・シャウフェリ氏の定義するワークエンゲージメント
ワークエンゲージメントとは、
・仕事に誇りややりがいを感じること(熱意)
・仕事に熱心に取り組むこと(没頭)
・仕事を得ていきいきとしている(活力)
の3つ全てが揃った状態を言う
要するに、従業員が仕事に対してポジティブになっている心理状態を「ワークエンゲージメントが高い」と呼ぶわけです。
ちなみにワーカホリズムはいわゆる「仕事中毒」の状態を言います。
ブラック企業で残業に追われている方などには、このパターン陥ってしまっている人も少なからずいるのではないでしょうか……。
一方、職務満足感は、おそらく「心理的安全性の高い職場」での働き方なのかもしれませんね。
心理的安全性の高い職場は、働きやすいことは事実ですが、同時に思わぬ落とし穴に転げ込む可能性もあります。
心理的安全性の高い職場についてはこれらの記事で解説しています。
・心理的安全性が高い職場とは
・心理的安全性と学習の関係 著書スキルマネジメントPart.9
バーンアウトは説明不要かもしれませんが、俗に言う「燃え尽き症候群」のことです。
仕事をやりきって、目標を見失い社会生活に困難が生じてしまっている状態ですね。
ネガティブ要素のある「ワーカホリズム」や「バーンアウト」は避けたいものの、活動水準が低い「職務満足感」もあまりなりたくはないですよね。
やはり、自身の持ちうる全ての力を発揮した上で仕事をしていくという意味では、ワークエンゲージメントが高い状態はできれば維持していきたいでしょう。
それぞれのエンゲージメントの違い
従業員エンゲージメントとは、従業員が組織に対して育む愛着や貢献意識のこと。
ワークエンゲージメントとは、従業員が仕事に対してポジティブになっている心理状態のこと。
では、それ以外に何が違うのでしょうか?
まず、既に挙がったところで言えば、3つ構成要素ですよね。
従業員エンゲージメントは、
・理解度: 従業員における企業理念の理解度
・共感度: 従業員が企業の活動に共感できるかどうか
・行動意欲:従業員が自発的に行動を起こせるかどうか
でしたが、
ワークエンゲージメントは、
・仕事に誇りややりがいを感じること(熱意)
・仕事に熱心に取り組むこと(没頭)
・仕事を得ていきいきとしている(活力)
でした。
では他に何が違うのか考えていきましょう。
おそらく次に考え付くのは、「高まった場合の状況」かもしれませんね。
従業員エンゲージメントが高まれば、従業員は会社に貢献できるように努力し、企業側は従業員の期待を裏切らないよう、より良い職場環境の提供を目指そうとします。
つまり、従業員エンゲージメントが高まると、「従業員も企業も成長できるWin-Winの状況」が構築されるわけです。
一方、ワークエンゲージメントが高まれば、従業員はモチベーションが上がり、心理的な充足感とパフォーマンスの両面で高い効果が表れるようになります。
いわゆる「嬉しい! 楽しい! 大好き!」状態ですね。
モチベーションについてはこちらの記事もご覧ください。
モチベーションと従業員満足度の違い
高まった状態が違えば、それに向けた「高め方」も違いそうですよね。
それぞれのエンゲージメントを高める上では、各構成要素を高められるようなアプローチをしていくことが肝心です。
従業員エンゲージメントを高めたい場合
・理念・ビジョンの共有
・福利厚生の充実
・多様な働き方の整備
・適切な人事評価
・心理的安全性の確保
ワークエンゲージメントを高めたい場合
・勤務時間の一定割合を自分が熱中できるプロジェクトに自由に充てられる制度を設ける
従業員エンゲージメントを高める上で重要なのは、企業の経営理念などを従業員に分かりやすく教えていくことや従業員に共感してもらえる環境や条件の整備、行動意欲の高まる環境の提供が重要になってきます。
例えば、企業の幹部層のみが企業理念を把握している状況では、従業員にとっては「企業理念は美辞麗句(びじれいく)の他人事」となってしまいます。
また、「有休を取得しようとすると上司が渋い顔をする」や「情報漏洩防止のためにリモートワークは認めない」などの旧態依然とした社風がまかり通っている状況では、従業者の共感を得ることや行動意欲を高めることは難しいでしょう。
しかし、「企業が社内全体に理念を分かりやすく教えて」いれば、従業員は「うちの会社、こんなに素晴らしいことをしようとしているんだ! だったら自分も貢献できるようにしていこう」と思えるようになります。
さらに、「幼稚園や保育園が臨時休園してしまった場合は子連れ出社を認める」や「大きなプロジェクトを成功させた者には臨時ボーナス30万円を出す」など、従業員の共感を得られる施策や行動意欲が高まるような施策が行われていれば、「こんなに働く側のことを思ってくれている会社なんだ」と従業員は思い込んでくれるため、自然と行動意欲も上がり、従業員エンゲージメントも高まっていくでしょう。
一方、ワークエンゲージメントは「従業員のやる気」を上げていく必要があるので、各従業員の性(しょう)に合った仕事ができるタイミングを設けることが重要になります。
例えば、経理を得意とする人間に現場での実務作業を任せたとしても上手くいかない可能性もありますよね。
そのため、「餅は餅屋」ではないですが、個人の強みを活かした仕事ができる時間を用意してあげることで、従業員のやる気を上げることが肝心です。
加えて、従業員のやる気が上がれば、行動意欲も上がります。
行動意欲が上がれば、従業員エンゲージメントが上がるので、従業員エンゲージメントを上げるための施策としてワークエンゲージメントの向上を狙うこともありでしょう!
まとめ
従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントの違いは下記の表の通りです。
イメージとしては、ワークエンゲージメントは従業員エンゲージメントに含まれるものですが、どちらも同じくらい大切と言えます。
従業員エンゲージメントもワークエンゲージメントも高めて、従業員から愛してもらえる企業や組織が構築できると良いですね!
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